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患者様からのよくあるご質問 その3
Q21. 結婚して5年になる夫婦です。私は33歳、主人も同い年です。結婚して1年間は全く問題なかったのですがその後主人は仕事上のストレスから、セックスレスになってしまいました。今年から主人は職場の配属部署もかわりストレスから解放され、すっかり元通り元気になってくれて私は喜んでいるのですが、性交渉だけはいまだにできないままです。主人が元気になったので、主人も私も妊活を始めたいのですが、セックスレスだと人工授精や体外受精などの方法しかありませんよね?やはり自然に近いタイミング法は性交渉ができないと不可能ですよね?
A21. ご主人が元気になられ大変よかったですね。タイミング法をご希望とのことですが、現状では夫婦生活が困難と伺いました。このようなカップルはこれまでよりも増加しております。しかし、昨年4月からの不妊症治療の保険適用の拡大により、このようなケースに対するお薬も新たに保険診療が認められたものもあります。一度日曜日に予約制で行っている男性不妊症外来を受診されることをお勧めします。自然妊娠をあきらめるのはまだ早いですよ。
Q22. ホームページを見ました。体外受精の妊娠率がとても高いのでぜひ受診したいのですが、私はまだ26歳なのでまずタイミング法を希望しています。行ったとしても人工授精までと考えていますが、体外受精を希望していない患者さんも診てもらえるのでしょうか?
A22. もちろんです。不妊治療はまず患者さんがなぜこれまで妊娠しなかったのか、不妊原因を探すことから始まります。その際に超音波で子宮、両側の卵巣を必ずチェックします。初診時に、超音波で右にそれなりの大きさの卵胞(卵子が入った袋のようなもの)を認め、あと2,3日で「右の卵巣から排卵する」と分かれば、本日か明日の夜に夫婦生活をもってくださいとお伝えします。
その後、排卵数日後に黄体ホルモン(プロゲステロン)値を血液検査で調べて、次回は月経3日目頃に来院して頂き、女性ホルモン値を血液検査で調べます。一方で、患者さんから生理が1週間以上遅れていますと受診されて妊娠成立が判明する場合もあります。このような場合、患者さんが妊娠まで当院を受診されたのはわずか2回です。そして妊娠8週から10週までに予定日を決めて分娩可能な病院に紹介します。このように、体外受精を考えていない一般不妊治療(タイミング法と人工授精)までしか考えていない患者様も当院にはたくさんいらっしゃいます。体外受精希望でなくても全く大丈夫ですよ。
Q23. 主人が自分で仕事帰りに精液検査を実施し、正常だったと言われたそうです。となると子供ができない原因は私でしょうか?そもそも精液検査が正常というのはどのような状態を指すのでしょうか?
A23.2021年の精液検査における WHO(世界保健機関)の基準値は、精液量1.4ml以上、精子濃度1,600 万/ml以上、運動率42%以上とされております。しかし、これらの数値はあくまでも基準値であり、妊娠を保証するものではありません。正常という概念は非常に難しく、上記の数値よりもむしろ自然に(不妊治療を全くせずに)妊娠した人の平均のほうが参考になるように思います。日本では北は札幌、南は福岡までの4都市で大規模に行われた検討で自然に妊娠した女性の日本人のご主人792名を検討したところ、その精液検査の中央値は精子濃度8,400万/ml,運動率77%であったとされています。よってWHOが提唱する基準値はかなり下方に設定されたものと推定されます。また運動率もただ動いている、同じ場所をくるくる回っている、しっぽや頭だけピクピク動いているものはあまり意味がなく、大切なのはまっすぐ卵子に向かって動いていける、直進(前進)運動率が大切とされています。当院で精液検査を行う場合、精子運動解析装置SMAS (Sperm Motility Analysis System)を用いて直進(前進)運動率を測定しております。よって今回のご相談の内容だけでは奥様に原因があるのか、もっと言えばご主人が本当に妊孕性があるのかはわかりません。
Q24.精液検査は1回だけではなく複数回行った方がいいとネットで見たのですが本当ですか?
A24.基本的には正しいです。通常精液検査は2回行ってその平均値をとる、またその2回の検査結果の値がかけ離れていた場合3回目を行って平均値をとることが推奨されております。ただし、これは理論的には正しいのですが現場で患者さんと接している医師には簡単にYes とは言えないことです。
何故なら検査目的の精液は外来受診する日の朝に取らなければならないからです。外来受診の前の日の晩にご主人に精液採取していただき、翌日奥様がご主人の精液を検査にもってくるのであればご主人のご負担はかなり軽減されます。しかし、精液採取からあまりに時間が経つと運動率が低下してしまうため、検査結果はあてにならなくなります。検査を行う朝または日中に精液を採取して奥様が持参されることになるのですが、ご主人にはかなりのご負担となります。
よって当院では1回目の精液検査の結果が不良の場合は再検査を行うようにお願いしますが、初回検査が良好であった場合は2回目の検査は通常行いません。精液検査を5回やっても10回やってもそれだけで妊娠できるわけではありません。初回の検査結果が不良で再検査を行う場合も上記を患者様によく説明し、ご相談の上で人工授精を早めに行うこともあります。人工授精の際は精液検査も一緒に行いますので、検査と治療を同時に行うことができます。精液検査を複数回ご依頼することによってご主人が疲弊してしまったり、ましてや本来良好であった夫婦関係がぎくしゃくしてしまうことは最も避けなければいけないと考えています。
Q25. なぜ、移植できる胚は原則1個なのですか?
A25. 体外受精において1度に移植できる胚の数は原則1個です。ただし35歳以上もしくは2回以上妊娠不成功に終わった患者様に関しては2個までを許容するとなっております。これは日本産婦人科学会が定めた厳密なルールであり、このルールを守らない医療機関は日本では体外受精を実施できなくなる可能性があります。上記のルールが決まるまでには長い歴史があります。私が医師になった1993年は移植する卵の制限はなく、また現在と異なり受精卵の凍結融解胚移植の成績は極めて不良で、採卵後2日目に初期胚である4細胞胚を凍結せずに移植する、新鮮胚移植が主流でした。凍結融解胚移植の成績が不良であったため多くの施設では残った受精卵は捨てていました。よって良好胚は可能な限り移植することが多くの施設で行われ、実際移植する良好胚の数が増すほど妊娠率も高い傾向にありましたが多胎妊娠(双子や3つ子、4つ子など)が大きな問題となりました。そこで日本産婦人科学会は1996年に一度に移植できる胚を3個までに制限しましたがこれでも多胎妊娠は減りませんでした。そして、現在の移植胚は原則1個という規定に落ち着きました。移植胚数を制限することにより一時的には妊娠率は全国的に低下する傾向があったもののその後の医療技術の進歩が移植胚数の制限を克服してきました。
Q26. 一般不妊治療では、発育卵胞数に制限があるのですか?
A26. Q25で述べましたように不妊治療は妊娠率を上げることと、いかに多胎妊娠を減らすのかという2つの相反する課題を克服するために進歩してきた歴史的背景があります。体外受精における胚移植数には厳密な取り決めがありますが、一方タイミング法、人工授精などの一般不妊治療では排卵誘発して超音波検査にて16mm以上の卵胞が3個以下の場合は治療を行っても良いが、4個以上育ってしまった場合は、その周期の治療をキャンセルする(性交渉、人工授精を行わない)という取り決めがあります。患者様にしてみれば排卵誘発剤のお薬を飲んだり、注射を打ったりしてせっかく沢山の卵胞が育ったのでこの周期に治療を完全にキャンセルするのはとても辛い選択となります。そのため、当院では患者さんに排卵誘発を行う前に上記の基準をしっかりとご説明し、ご納得して頂いてから治療を開始するようしています。
Q27.2段階胚移植というものを試してみたいのですが、どのような移植法なのでしょうか?
A27. Q25で述べましたように移植する胚の数を増やせば多胎妊娠の確率は増しますが、妊娠率が上昇するのもまた事実です。特に良好な胚盤胞を2個移植した場合、妊娠率は上昇しますが、多胎の割合も高くなります。
なんとか妊娠率を下げないで双胎を防げないかとの思いから考案されたのが2段階胚移植法です。先に採卵後2日目または3日目の初期胚(4~8細胞期胚)を移植してその2~3日後に培養5日目の胚盤胞を移植します。この方法を2段階胚移植法と呼び、先進医療として認められています。この方法により良好胚盤胞を2個同時に移植するよりも若干妊娠率が低下するものの多胎妊娠率は明らかに低下します。欠点は胚を2個移植することになるので、35歳以上か2回以上移植不成功の患者さんにしかこの方法が行えないこと、さらには保険診療で体外受精を行った際には必ず初期胚を最低1個は先に凍結しなければならないこと。そしてもしも残りの胚を胚盤胞到達まで培養しても胚盤胞にならなかった場合、保険診療では仮に初期胚であっても凍結胚が存在する状況下での新たな採卵が原則不可となっており、2段階胚移植どころか最初に凍結した初期胚のみを次周期に移植しなければならず、保険の移植回数が減ってしまうことが挙げられます。
Q28. SEET法というものを試してみたいのですが、これはどのような治療ですか?
A28. 自然の妊娠では、受精卵(胚)は卵管の中の卵管膨大部というところで受精し、細胞分裂を繰り返しながら5~6日間かけて子宮に向けて移動し、胚盤胞となって子宮に到着します。胚は卵管の中で成長をしながら子宮に向けてシグナルを送っており、子宮内膜はこのシグナルをキャッチして数日後に子宮に到着する胚の受け入れ態勢を整えるため着床に向けて準備を始めると考えられています。
しかしながら、体外受精で発育した胚盤胞の胚移植では、体内に胚が存在していない状態から、着床時期に胚盤胞が子宮に突然入ってくることになり、内膜側は胚のシグナルを受け取らない状態で内膜が発育したことになります。そこで、胚のシグナルのみを子宮内膜に与えるという事で開発されたのが、SEET法(子宮内膜刺激胚移植法;Stimulation of Endometrium –Embryo Transfer)です。胚盤胞を凍結できた場合、受精卵の培養に利用した培養液をあらかじめ凍結保存しておきます。2段階胚移植の初期胚を戻す時期にこの培養液を解凍して子宮内に注入します。この場合、実際に移植する胚は胚盤胞1個のみですので35歳未満の初回、もしくは2回目の胚移植の患者様にも行うことができます。こちらも先進医療として認められており、当院でも積極的に行っています。
Q29. 前回体外受精を行ったときに受精率が不良だったので、今度は活性化処理を行ってみましょうかと言われました。これはそもそもどういうものなのでしょうか?
A29. ICSIは通常高い受精率が得られる方法ですが、完全な受精障害はICSI周期の1~3%で発生し、十分な数と運動性のある精子が利用可能な場合でも再発する可能性があります。卵子活性化の異常は、ICSI後の受精障害における重要な原因と考えられており、Caイオノフォア(AOA)は、ICSIにおける受精障害に対して有効な治療法であり、ICSIとICSI-AOAで先天異常、産科的予後、新生児予後に関して有意な差は無いとされています。
Q30. 今通っている病院の先生から次回慢性子宮内膜炎の検査をしますと言われました。何の検査かわからなったので恐る恐る先生に聞いてみるとCD138ですと面倒くさそうに言われましたが、余計に訳が分かりません。一体これはどういう検査で何のためにするのでしょうか?
A30. 慢性子宮内膜炎とは局所子宮内膜の持続的な炎症疾患で、着床不全や不育症の患者様に高率に認められます。上記のように慢性子宮内膜炎の有無は不妊症の治療成績を大きく左右するのですが、厄介なことに慢性子宮内膜炎にかかっていても患者様は基本的に無症状であることがほとんどで、なおかつ一般的な不妊症のスクリーニング検査では診断することはできません。基本的な診断方法は、子宮内膜の組織生検を行い(子宮体部のがん検診のもっと上等なものとイメージしてください、外来の診察台で普通にできます)免疫染色を行いCD138陽性の形質細胞を確認します(顕微鏡を400倍の倍率にして:中学校や高校の生物の実習で使った顕微鏡の一番大きな倍率で、CD138陽性の形質細胞は色がついて染まって見えます)子宮鏡検査を行うと典型的な慢性子宮内膜炎は子宮内膜の発赤(赤く見えます)、間質浮腫、マイクロポリープ(超音波検査ではわからない小さなポリープをイメージしてください)などを認めます。慢性子宮内膜炎の治療は原則的には避妊し、1日2回抗生剤を2週間内服していただくというものですが、子宮内膜ポリープを認める場合は、まずポリープを取り除くことが優先されると言われています。当院では初診後、できるだけ早めに慢性子宮内膜炎の検査を行っております。